〜第25回京都大会〜
佐伯研究委員長問題提起
| 第25回 全国体育学習研究協議会京都大会 問題提起 1980年11月27日 楽しい体育の授業づくりの考え方と方法 〜学習指導計画の作り方を中心に〜 全国体育学習研究会研究委員長 佐伯聰夫 T 体育をめぐる状況と当面している課題 1.体育をめぐる状況 (1) 社会変化と体育 体育は子どもの全人的成長(知的・情緒的・身体的・社会的)を配慮しながら運動の基礎的 学習を進めようとするものである。この学習が意味を持つためには、生活における運動をめぐ る諸問題(運動需要)を解決しうるよう運動の学習が進められなければならない。運動需要は 社会変化とともに変化するから、体育の学習もこれに対応してゆかなければならない。 (2)現代の運動需要と体育 産業社会から脱工業社会への移行にともなって健康の危機や運動不足、レジャーの増大等 のために運動需要が急激に変化し、健康で豊かな生涯にとって運動を継続的に行うことが重 要な問題となっている。この現代的運動需要への対応は、その性格からみて、個々人の自発 的・自主的な運動参加によってのみ可能となる。従って体育は個々人の生涯にわたる自発的 ・自主的運動参加にむけて運動の学習を進めなければならない。 (3)自発的・自主的運動参加と体育の学習指導 自発的・自主的運動参加は運動への欲求が育てられ、必要性が理解され、その充足の方法 が学習されることによって形成される。従って、体育の学習指導は子どもの全人的成長を配慮 しながら、行う者にとっての運動の欲求が充足され、必要が理解されるように展開されることが 重要となる。このような性格を持つ体育を「楽しい体育」と表現する。欲求や必要が充足される ことは一般に楽しい経験であり、これからの体育は運動をそのような経験として学習することが 重要だからである。 2.当面している課題 (1)これまでの体育と「楽しい体育」 学習される運動が生活の中で生かされる可能性と必要性が少なかった社会のこれまでの体 育では、運動の教育的価値は主として発達への刺激であったから、運動は「教育の手段」とし て指導の立場からとりあげられ、計画されるものであった。「楽しい体育」では新しい運動需要 −自発的・自主的運動参加に対応して、運動の手段的性格を配慮しながら、運動を「教育の目 的」としてとらえ、学習者の立場から計画しようとする。 (2)当面している課題 上記のような観点から、体育の学習指導を「楽しい体育」へむけて転換することが大きな課題 である。この転換は運動の学習を学校期(発達期)中心から生涯の生活に意味を持つように、 仕事への連続中心からレジャーへの連続に役立つようにすることであり、運動を学習者にとっ て学習する目的となるようにとりあげることであり、具体的には、運動の学習指導を指導の計 画から学習の計画へと転換することである。 このような転換を具体的にどのように方法化するかが問われている。その問題の範囲は小・ 中・高校にかける全課程をどのように転換するかということから、一時限の授業をどうするかと いうことまでに及ぶが、今回は「楽しい体育」の授業づくり−学習指導計画の作り方−につい て原則的な考え方と方法を提示する。 U 「楽しい体育」の授業計画の考え方 1.授業計画と単元計画 (1) 授業計画:体育の授業計画は目標にむけられた運動の学習・指導活動の合理的な過程の 予定である。授業計画は学校課程(小・中・高・大)と学年課程(1年〜6年)とに密接に関連し ながら、単元の年間配列を中心とする年間計画、単元計画、時限計画とに分かれるが、ここで は単元計画を中心に「楽しい体育」の授業計画を考える。 (2)単元計画:単元とは学習内容のまとまりを意味し、単元計画とは学習者のレディネスに対応 して教科の目的と関連しながら、この単元の内容をどのような目標にむけて(学習の方向づ け)、どのような過程で学習・指導するかの計画である。教育の目的として運動を位置づける 体育の学習では、種目が一つの単元を構成する。 従って体育の単元計画は子どもの実状に応じて運動種目の学習をどのような方向へむけ て(目標)、どのような課程で進めるかについての計画・予定である。 2.「楽しい体育」の単元計画 (1) 楽しい体育の基本的性格:楽しい体育はすべての子どもが生涯にわたって協力して自発 的・自主的に運動にとり組むことを求めている。従って、運動の学習が子とも達の運動への自 発性と自主性に結びつくように指導しなければならない。人間はなんらかの欲求と必要の充足 を求めて運動を自発的・自主的に行う。つまり運動にはそれぞれ特有の欲求・必要充足の機 能がある。人は特性を求めて自発的・自主的に運動するのである。それゆえ、運動の自発性・ 自主性を育てようとする楽しい体育はそのような特性から運動をとらえ、特性を持つ運動(楽し い運動)を楽しく学習するように計画することが基本的な性格となる。 この場合、体育の他の性格を無視するものではない。楽しい体育は子どもの全人的成長に 対する運動の手段的性格についても十分配慮しなければならない。特に身体発達に対する運 動の機能は楽しい体育では、どのような種目を単元でとりあげるか、という段階で配慮し、ま た、自発的な活動が真に豊かな運動へのとり組みを生むという事実を重要視する。このように して楽しい体育は一時的な運動の必要性を考慮しながら、生涯にわたる必要に対応しようとす るものである。 また、「楽しさ」に対する誤解がある。運動の楽しさは体育の楽しさよりもある意味で広く、ま た狭い。楽しい体育は運動の楽しさを中心にしながら教育的な価値と結びつくものを子ども自ら が求め、獲得し、きたえていく授業である。 (2) 楽しい体育と単元計画:楽しい体育は運動の楽しさを学習し、運動を楽しく学習するものであ るから、学習・指導の計画は欲求と必要の充足の視点からとらえた運動の特性に基づいてた てられることになる。一方、単元計画は目標と内容をある過程として計画するものである。従っ て、運動の特性と目標と内容の関係をどのように考えればよいかが問題となる。 学習の目標は学習を方向づけるものであるから、楽しい体育では欲求と必要の充足からみ た運動の特性が具体的なものとなる。 学習内容は、目標を達成するために学習されるものである。楽しい体育では目標=運動の 特性であり、特性は運動種目に内在するものであるから、特性を持つ種目自体を学習しなけ れば目標を達成することはできない。従って、特性を持つ種目=学習の目標=内容となる。 つまり、運動の特性が目標と内容を導くことになる。 (3) 運動の特性と運動分類:以上により、楽しい体育の単元計画を考えるためには種目の特性 が明らかにされなければならない。種目の特性をとらえる上でどんな欲求と必要を充足するか という視点からの運動分類が参考になる。 |
| T 欲求の充足を求めて行われる運動 1 挑戦の欲求に基づくもの−スポーツ (1) 他人への挑戦・・・・ゲーム型 (ア) 個人対個人 (イ) 集団対集団 (2) 自然・物的障害への挑戦・・・・克服型 (3) 観念的基準への挑戦・・・・達成型 2 模倣・変身の欲求に基づくもの−ダンス (1) 主観的な模倣・変身・・・・模倣遊び (2) 客観性を持った模倣・変身・・・・表現運動・フォークダンス U 必要の充足を求めて行われるもの−体操 (必要=目的に応じて細かく分類される) |
| (4) 子どもから見た運動の特性:単元計画は学習者のレディネスに対応するように計画されなけ ればならない。子どもは運動への興味・関心・能力等に個人差があり、同じ種目に対しても意 欲の高い者もいれば学習を避けたがる者もいる。学習の意欲を高めるためには障害や抵抗に なることがらを除き、あるいは滅ぼすような学習の方向づけをしなければならない。単元計画 は運動の一般的特性をこのような子どもの学級差・個人差に応じる指導の工夫によって具体 的になる。 (5) 学習課程:以上のように、運動の特性をとらえ、それを生かした学習の方向づけ(学習のね らい)が導かれれば、次は単元の流れをどのような段階に分けて計画するか・学習の進み具 合(学習過程)の計画が問題となる。 学習課程は目標に向けられた学習の道筋であり、一般には組織的な学習内容の段階的配 列によって示される。楽しい体育では、学習の目標=学習内容となるから目標を欲求・必要充 足の発展的流れ、つまり楽しさの高まりと広がりにむけて2〜3の下位のねらいに分けることで 示されることになる。 楽しさの流れについては以下の図が参考になる。 |

| この図は楽しさの流れが挑戦する目標と能力のバランスによることを示すものであり、プレイ 論における未確定性に通じるものである。つまり楽しさを求めて能力と挑戦のレベルが高まる ことを示している。従って楽しい体育の学習課程を次のような原則で考えてみてはどうだろう か。 |

| 「やさしい運動」とはそれぞれの能力に応じて現在楽しく行えるレベルのものであり、「工夫し た運動」は自発的な創意・工夫・努力によって高まった能力のレベルに対応する挑戦のレベル にあるものである。 (6) 楽しい体育にかける運動の特性と学習指導:楽しい体育では運動の楽しさを運動を楽しく学 習することで学習させようとする。つまり、特性を持った運動を特性にふれながら学習し、特性 を生かして行えるようになることが目標である。従って特性は、既に述べてきたように学習の ねらいや過程を導くものであり、学習活動の全体にわたってそれが生かされるよう計画されな ければならない。このような点から、運動の特性にしたがって学習指導計画を具体化する上 で、次のような事柄が配慮されなければならない。 |
| ゲーム型 | ・勝敗の未確定性 ・勝敗への態度 |
| 克 服 型 達 成 型 |
・挑戦する障害・基準と学習者の能力とのバランス ・安全への態度 |
| 模倣変身型 | ・対象と学習者の意欲の関係 ・恥ずかしさへの配慮 |
| 体 操 型 | ・必要性とその充足理論の理解 ・効果への配慮 |
| このような事柄は単元の種目にかける運動自体と運動をめぐる人間関係との二つの視点か らとらえられ、学習のねらいと過程に生かされなければならない。 V 楽しい体育の学習・指導案の形式例 以上のような考え方に基づいて楽しい体育の学習指導案の形式を考えてみると次のような形 になる。 単元(運動種目) 1.運動の特性 (1) 一般的特性:運動分類を参照し、特性を決め、学習の方向と性格の大枠をつかむ。〜基本 的な学習の方向性 (2) 子どもからみた特性:クラスの実状、個人差をつかみ、具体的な学習の幅や指導上の工夫 の手がかりを得る。 2.学習のねらいと過程 (1) 学習のねらい:全体的な学習の基本的方向を示す。(マナー・安全についてのねらいを含 む) (2) 学習の過程:学習過程のモデル図を参照し、楽しさの流れにそった運動のしかた等を2〜3 の段階で示す。 ねらい1 やさしい運動を楽しむ(運動のしかた等を例示する) ↓ ねらいX 工夫して運動を楽しむ(工夫のしかた等を例示する) 3.学習活動と指導:2.を子どもの活動の予定として具体化し、予想される指導活動を加えたも の。 |
| は じ め |
1.学習のねらいと過程をつかみ、学習のしかたが解る。 2.グルーピング、場所、用具、学習のきまり等を作る。 |
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| な か |
学習活動 | 指導 |
| ねらい1の活動をする ↓ ねらいXの活動をする |
ねらいがわかり、自分の力に 合っているか。 工夫のしかたがわかり、つま ずきを自分で解決できるか。 |
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| ま と め |
1.学習の反省をする。 2.記録やノートの整理をするなど。 |
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| W 楽しい体育の学習過程のめやす 運動の学習の流れを楽しさの発展へ向けての学習のねらい発展として考えてみると、次のよう な大枠を考えることができる。 |
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| ・ チクセントミハイの楽しみのフローに示されるように、楽しみを求めて能力と挑戦のレベル が高まるから、上図 で「工夫した」と表現されているものは、「難かしい」と言い換えてもよ い。つまり、学習過程は楽しい体育でも挑戦のレベルから見るならば容易から困難へという 道筋をとることになる。 ・ それぞれの学習過程は、□枠が最大の幅を持ち、○印で示されているのはその幅を、 1/2にしたものである。個人差に応じるためには、学習過程の幅、つまり学習の目標の選 択の幅が広い程よいが、目標の共通性が失なわれ、子どもの実状と指導のしかたによって は目標がかえって拡散されてしまう恐れがあることに注意しなければならない。 ・ 達成型と克服型は非常に類似した過程となっているが、更に検討される必要があろう。 模倣・変身型についても同様である。 ・ 「動きづくりの体操」は達成型の学習過程をとることになる。 X 楽しい体育の授業づくりに関する若干のコメント 1.運動の特性と単元計画 (1) 運動の特性・一般的特性・子どもから見た特性 運動の特性は、その運動が他の運動と区別されるところの特別な性格を意味するものであ るが、それは運動の構造(かたち)、身体への効果、行うものの欲求や必要を充す機能等の 観点からとらえることができる。楽しい体育の単元計画では、機能的特性から単元(種目)の 運動の特性を明らかにすることが重要である。 一般的特性は単元(種目)の楽しさを中心にした定義であり、人間は一般にその種目にどん な欲求や必要の充足を求めるかを明らかにするものである。 子どもから見た特性は子どもと種目の関係を楽しさを中心にした特性との関係でとうたもの である。一般的特性が種目の楽しさについての共通の物差であるのに対して、子どもから見 た特性はこの物差から楽しさについての子どもの個人差、子ども達の位置を明らかにするもの である。一般的特性→子どもから見た特性をたどることによって、具体的な子どもにとっての 種目の特性が明確になり、学習のねらいが導びかれることになる。 (2) 運動の特性と指導要領の内容との関係 指導要領に提示された内容の中には、そのままで機能的特性をとらえられるものととらえに くいものとがみられる。後者については楽しい体育の授業計画をたてるためにはその指導内 容を子どもの立場からとらえ直し、特性を明確にして計画化することが必要である。 (3) 単元における特性の変化について 特性が不明確たと学習のねらいを子どもの自発性と結びつけることは困難になる。従って、 どのような単元も特性を明確にして計画されねばならない。しかし、学習経験がすくなく、単元 の運動の組織化が低い場合には、学習の進歩に伴って特性をかえた方がより楽しく行える場 合もある。このような単元では、ねらいを特性A→特性Bへ変化させる学習過程が適切とな る。 この場合、これを同一単元とするか、別の単元とするかは、年間単元計画や学習の連続性 の可否等によって異なるであろう。 2.楽しい体育の授業におけるグループをめぐる問題 (1) グループの見直し これまでのグループ学習の集団は主として学習活動を自主的・能率的に組織し、かつ望まし い人間関係一般の形成をねらいとしていた。「楽しい体育」はそこから学びながら集団を運動 をともに楽しむ仲間として見直す必要があると考える。つまり、人間関係のモデルを仕事→レ ジャーへ転換させることが必要であり、人間関係を特性を持った運動に内在するものを中心に とらえ、グループ活動を見直すことが重要と思われる。もちろん、発達段階、学校や学級の実 態によってグループ活動のもたせ方は一様ではない。 (2) 人間関係からみた学習過程について 楽しい体育の学習過程は、楽しさの発展の流れを中心に考えられる。この楽しさの発展を人 間関係の発展としてみることも重要である。しかし、運動と切り離して人間関係一般をとりあげ るならば、再び運動手段論に落いる恐れがある。従って、具体的には特性を持った運動に内 在する人間関係をとらえることが重要である。例えば、ボール・ゲーム(集団)の学習過程は人 間関係から見ると、次のように見ることもできる。 |
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| しかし、これでは指導性が強すぎ、運動にたちむかう自発性は弱くなる。運動の特性との関係 でとらえるならば、 |

| この方が、子どもと特性が結びついてとらえられると考えられる。 3.楽しい体育の授業における教師の役割 授業は子ども、内容、教師の三者の関係によって成立する。教師の役割は、教科の目標の実 現にむけて内容と 子どもを転びつけることであるが、具体的な位置と働きかけは 教科の目標 によって変化する。 教授型の授業では「教師・運動−子ども」であった。これまでのグループ学習は教授型の授業 を学習・指導へ転 換させたものであり、 |

| であった。この関係においては指導の計画を子どもに移す「うつし」が教師の重要な役割で あった。楽しい体育の授業では、 |

| という関係になる。つまり、教師は子どもの欲求や必要との関係で運動(内容)をとりあげ、学 習の計画をたてる役割を重要なものとすることになる。従って、具体的には、ねらいと子どもの 関係をたえず調整してゆくことが重要な指導となると言えよう。 |


